各教科書会社 御中
中学歴史教科書の「慰安婦」の記述の復活を求めます!!
来年は、2012年度版中学歴史教科書の検定が行われる年であり、貴社においても新学習指導要領に基づく教科書編集作業が始まっていることと思います。私たちは貴社の2012年度版中学歴史教科書に「慰安婦」問題の記述を復活するよう、強く要請致します。
■貴社におきましては、1997年度版と2002年度版中学歴史教科書に、以下のような「慰安婦」に関する記述がありました。
・「また、朝鮮や台湾などの女性のなかには戦地の慰安施設で働かされた者もあった」(「朝鮮人と中国人・台湾人の強制連行」)/1997年度版
・「また、戦地の非人道的な慰安施設には、日本人だけでなく、朝鮮や台湾などの女性もいた」(「戦争と民衆」)/2002年度版
ところが、「慰安婦」記述に対する攻撃が激化するなか、2002年度版以後の貴社の中学歴史教科書から「慰安婦」に関する記述は消えてしまいました。
■「慰安婦」問題については、麻生政権はもとより歴代内閣が1993年に発表された河野洋平官房長官談話(以下、河野談話)の継承を表明しています。河野談話は、
・慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。
・慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。
・また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
・なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。
・本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。
と、事実関係と加害を認め、「我々はこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」と、明確な言葉で歴史教育を行う決意を表明しています。つまり、教科書に記述し、教育していくことは、日本政府の公的な表明であり、決意なのです。
それにも関わらず、なぜ、貴社は教科書から記述を消し去ったのでしょうか?
被害女性たちは、戦後の長い間、その被害に苦しんできました。心身に深い傷をかかえながらも性暴力故、女性たちはその被害を語ることさえできませんでした。90年代に入り、女性たちは姿を現し、自分の身に何が起こったのかを語り、尊厳の回復を求めて日本政府に公的な謝罪・補償、尊厳の回復を求めて立ち上がり、正義の実現を求め、また、二度とこのようなことが繰り返されないよう、この事実を教科書に記述して若い世代に教育してほしいと、繰り返し訴えてきました。しかし、日本政府はもとより、未だ多くの日本の教科書は沈黙を続けています。
■「慰安婦」記述復活はなぜ日本の青少年にとって大切なのでしょうか。そして、教科書出版社にはどのような社会的責務があるのでしょうか。
まず第一に、河野談話は前述のように、歴史の教訓として「慰安婦」問題を直視し、「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を表明しています。日本にとって負の歴史であっても、過ちは繰り返さないためにも後世に永く記憶を渡すことは、日本の決意です。
第二に、被害女性たちが沈黙を破り、壮絶な体験を語ったのは、「私たちのような苦しみを、二度と若い世代に味あわせてはならない」という思いからです。「慰安婦」問題を教えることは、被害者の尊厳の回復であり、被害者の願いである戦時性暴力根絶のためにも女性の尊厳とは何か、人権とは何かを教える重要な教育です。
第三に、教科書記述を含め、「慰安婦」問題の正当な解決がなされることは、被害女性はもとより、国際社会が強く求めているものです。2007年には米下院議会やEU議会、オランダ議会、カナダ議会が、2008年には韓国議会、台湾議会が「慰安婦」問題に関する決議を行いました。さらに、昨年10月30日には国連・規約人権委員会が最終所見(CCPR/C/JPN/CO/5)を公表しましたが、これら決議や最終所見は、明確で公的な謝罪・補償と共に、二度とこのようなことが繰り返されないために教科書に記述し、教育を行うよう勧告・指摘しています。
また、政治家やマスメディアが被害者の名誉を傷つけたり「慰安婦」について否定する言動に対して、日本政府が毅然とした態度で反駁・制裁するよう、勧告・指摘しています。
一方、国内においても、宝塚市議会、清瀬市議会、札幌市議会で「慰安婦」問題の解決を日本政府に要求する意見書が採択されていますが、そこでも、教育や記憶の継承の必要性が述べられています。こうした声を日本が無視し続けることは、憲法の精神からして、人間として、国際社会の一員として、恥ずかしいことです。
第四に、国際社会が知っている「慰安婦」の事実を日本人が知らないのは、それを知る機会が意識的に閉ざされているからです。今では「慰安婦」問題について知らない日本の若者が増えていますが、教科書に書かれないことは、若い世代がそれを知る機会を奪っているということです。ご存知のように、今の教育現場は、教科書に書いてないことを教えることは困難であり、これは、教師の個人的努力に任せる問題ではありません。
第五に、「慰安婦」問題を中学生に教えるのは早すぎるという声がありますが、人権教育に「早すぎる」ということはありません。むしろ、性教育・人権教育は早くから教育現場でなされるべき課題です。
日本も批准している「子どもの権利」条約第二八条には、「教育についての子どもの権利」が記され、さらに第二九条に「子どもの教育で指向さるべきこと」として、「基本的人権の尊重」「自己の文明と異なる文明に対する尊重」「すべての人民の間の、・・・・理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること」などが挙げられています。「慰安婦」問題を知ることは、子どもの権利です。
過去の過ちと責任に背を向け、なかったことにしようという暴言が後を絶たない日本の状況は、国際的にもきわめて恥ずかしいことです。過ちに向き合わないことを、日本は若い世代に教育しようというのでしょうか。教科書に記述し、青少年に伝え、青少年がその問題について考えたり取り組んだりできるような条件を整えることは、教科書を通じて日本の教育に責任を負っている教科書出版社の社会的責務ではないでしょうか。
なお、麻生首相は谷岡郁子議員の質問主意書に対する答弁書(2009年1月31日付)のなかで、「慰安婦の問題を含め、教科用図書で具体的にどのような事象を取り上げ、それをどのように記述するかは・・・当該図書の著作権者等の判断にゆだねられている」と言明しています。
私たちは以上の理由から、貴社の2012年度版中学歴史教科書に「慰安婦」の記述を復活されることを強く要望致します。また、「慰安婦」にされた女性の国籍(出身地域)は朝鮮に限らず、朝鮮・台湾をはじめ、中国・フィリピン・インドネシア・オランダ・東ティモール・マレーシア・タイ・グアム・ビルマ・インド・ベトナム・日本など日本軍が駐屯したアジア太平洋の全域にわたります。記述に際しては、これまでの調査・研究の成果を踏まえられますよう、重ねてお願い致します。
2009年2月12日
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
(VAWW−NETジャパン)