読売新聞10.16社説に対する反論
去る10月16日付け読売新聞の社説「『慰安婦』決議案 日本政府はきちんと反論せよ」には数々の事実誤認があります。このような誤った認識があたかも真実のように一般化され垂れ流されることに対して、私たちは怒りと共に、強い危惧を抱きます。
1、「慰安婦」の徴集に
「拉致」「強制連行」があったのは事実
読売新聞の社説は「当時、『慰安婦狩りに従事した』と名乗り出た日本人もいて、これも『強制連行』の根拠とされた。だが、この証言は作り話だった。90年代半ばには、学術レベルでは『強制連行』はなかったことで決着がついた問題だ」と述べていますが、90年代半ばには、すでにアジア各地から多くの被害女性が名乗り出られ、日本軍が侵略していった占領地や軍政下の中国やフィリピン、インドネシアなどでは拉致による連行がほとんどだったことは明らかになっていました。
また、日本の植民地であった朝鮮・台湾の場合、就業詐欺や甘言による連行が多数みられますが、朝鮮人女性の宋イルレさんは水汲みに行く途中で2人の日本軍人に連れ去られ、呂福実さんは日本人の巡査や軍人らに銃剣を突きつけられて天津の慰安所に連れて行かれ、姜ムジャさんは巡査と憲兵により自宅から無理やり連れ去られパラオの慰安所に移送されるなど、拉致による連行は地域を問わず行われていたことは明らかです。
社説は、被害者の証言には目を向けず、「慰安婦狩りに従事したと名乗り出た日本人」のケースを否定して、強制連行は無かったと断定していますが、それは、加害責任の否定に固執し、事実に背を向ける「反省無き日本」を象徴する恥ずべき姿です。
2、「強制連行」とは、
「本人の意思に反した連行」をいう
また、社説では「河野談話は、確かな1次資料もないまま、官憲による慰安婦の強制連行を認めたかのような叙述を含む内容になっている」と、河野談話を否定していますが、河野談話は「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた」と、徴集の強制性を「本人の意思に反して行われた」ものと明確に示しています。一方的に強制連行=「兎狩り」と定義して、強制連行はなかったとする社説の主張は、河野談話を意図的にねじ曲げるものです。
3、「慰安婦」は「性奴隷」だった
河野談話で見落としてはならないことは、日本政府が認めた「強制性」は徴集に関してだけではなく、「慰安所における生活も強制的な状況の下での痛ましいものであった」と、慰安所内での「強制」を認めた点です。「慰安婦」問題で問われているのは連行の形態だけではありません。監禁状態の中で自由を奪われ、暴力を振るわれて性奴隷を強いられたことこそが問題なのです。
慰安所に連れて行かれた女性たちは、力のかぎり抵抗しました。しかし、抵抗すれば彼女たちの鼓膜が破れたり骨折するほど殴られ、時にはタバコの火を押し付けられ、時には軍刀で切られ、抵抗することさえ奪われていきました。逃げたくても監視の目が厳しくて逃げることもできない状況の中で、女性たちは性奴隷を強制されたのです。
性奴隷を強いられた結果、多くの「慰安婦」が自死しました。また、過酷な生活の中で、多くの「慰安婦」が亡くなりました。敗戦時、置き去りにされた女性たちの中には、未だ祖国に帰ることも出来ずに連行された地に生きている方もいます。被害女性たちにとって、戦争は未だ終わってないのです。
4、「慰安婦」問題は解決されていない
日本政府は被害者の声はもとより、国連人権委員会やILO条約適用専門委員会の度重なる勧告に背を向け続けています。安倍首相は河野談話を政府としても個人としても踏襲すると答弁しましたが、その安倍政権の官房長官である下村博文氏は、「談話の前提となる事実関係を調査し直すべきだ」と、河野談話を否定する発言を行っています。
それに対して安倍首相は沈黙していますが、すでにアジア各国からは多数の被害女性が名乗り出ており、日本政府が調査・公表した「慰安婦」関係資料は374件(警察庁関係公表資料:12件/外務省関係公表資料:157件/防衛庁関係公表資料:148件/米国国立公文書館・国立国会図書館所蔵資料:32件/国立公文書館・大英帝国戦争博物館所蔵資料:25件/内閣・内務省関係:4件/軍関係16件/厚生省関係公表資料:5件)に上っています。研究者や市民が発見した資料を加えれば、この数字は更に上回ります。今更、「資料が無い」「証拠が無い」ということはいえません。
社説は「米下院委員会で議決されたのは初めてだ。外務省は何をしていいたのか」と、政治圧力をもっと加えろといわんばかりの主張をしていますが、こうした日本政府の姿勢がどれほど被害者を傷つけ、被害を与えたアジア各国の人々に不信感と絶望を与えてきたことでしょう。
私たちは、日本政府が「慰安婦」問題にきちんと向きあい、被害者の声に真摯に耳を傾け、一日も早く被害者が納得する解決がなされることとを心から願います。また、読売新聞に対しては、過去の戦争におけるメディアの戦争責任を想起し、被害者の証言に耳を傾け、加害に向きあう姿勢を育てられることを、強く願います。
2006年11月25日
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)