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2000年女性国際戦犯法廷
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安倍晋三氏の事実歪曲発言について

VAWW-NETジャパン抗議声明

このたび、政治家によるNHKの番組介入が問題になっており、「政治家」として名前が上がっている安倍晋三氏と中川昭一氏が、複数のメディアを通じてコメント、または発言を行っています。中川氏は国内不在ということもあり、彼の発言の多くに触れることはできませんが、安倍氏はこの間、頻繁にマスコミに登場し発言を行っています。その中で、安倍氏は、女性国際戦犯法廷の事実関係について重大な事実歪曲、誹謗・中傷を続けていますが、それに対してマスメディア側は知識不足、勉強不足のためほとんど事実の間違いを指摘することができず、そのまま一般市民に垂れ流されているという状況にあります。

 歪曲された事実があたかも真実であるがごとく日本の市民の皆様に伝わっていくことは、女性国際戦犯法廷と「法廷」を主催した国際実行委員会の名誉を大きく傷つけるものであり、何より「法廷」に正義を求めて被害8カ国から参加された64名の被害女性の尊厳を甚大に侵害するものです。「法廷」には世界三十カ国以上から約400名が参加し、三日間の審理にはおよそ1000人が傍聴し、最終日の判決概要に言い渡しはおよそ1300人が傍聴しました。「法廷」の歪曲と侮辱は、こうした多くの人々に対しても許されない行為です。

 安倍氏のこうした発言は、自らの行為を正当化するため、番組で取り上げた女性国際戦犯法廷自体を貶めることで世論を味方につけようとしているものです。問題の論点のすり替えが「法廷」の事実歪曲をもって行われていることは、今回の事件の真相を明らかにする上でも大変問題であり、このことは、真実を明らかにする上で危険な流れであるといえます。

  マスコミの皆様には問題の核心(番組に対する政治家の介入)を見失うことなく真実を明らかにし、ジャーナリズムの役割を果たしていただきたく存じます。そのためには女性国際戦犯法廷の事実関係を正確に理解して頂くことは重要、不可欠なことであると考え、皆様に正確な事実を知っていただくため、ここに安倍発言の間違いを指摘いたします。

※以下に示す安倍氏の発言は、「報道ステーション」(1/13放送)、「ニユース23」(1/13放送)、「サンデーモーニング」(1/16放送)、「サンデー・プロジェクト」(1/16放送)などにおける発言、及び安倍氏が出したコメントに基づいています。

1、「被告と被告側の弁護人がいない」

⇒ 女性国際戦犯法廷は、「日本国家の責任」を問うため、開催2ヶ月前に全裁判官の名前で、当時首相であった森喜朗氏に被告側弁護人(被告代理人)の出廷を要請した。しかし、開催直前になっても何の応答もなかった。従って裁判官は「アミカスキュリエ」(法廷助言人※)という形で被告側の弁護を取り入れた。「法廷」では3名の弁護士がアミカスキュリエとして被告側主張を行い、「慰安婦」問題についての日 本政府の立場や主張を明確に紹介し、被告が防御できない法廷の問題点を法廷のなかで指摘した。

※Amicus Curiae 裁判所の求めに従い、裁判所に対し事件についての専門的情報または意見を提出する第三者。英国の制度で、弁護人がいない場合、市民の中から弁護人を要請できるという制度。

2、「裁判自体、とんでもない模擬裁判。模擬裁判ともいえない裁判」

⇒ 女性国際戦犯法廷は「模擬裁判」ではなく権力を持たない市民の力によって実現した国際的な民衆法廷である。法廷に出廷した被害証言者も、加害証言者も、被告人も、判事も、すべて“実在する/した”人物であり、「法廷憲章」作成という手続きを踏んで、膨大な証拠資料と証言に基づいて当時の国際法を適用して裁いた民衆法廷だった。「国家の法廷」のように「国家」に権威の源泉があるのではなく、大国やエリートの道具だった国際法を市民の手に取り戻し、被害者を置き去りにしない正義の実現を目指し、「国家の権威から無縁」であることによって得られる「普遍的正義」を明らかにしようと、民衆法廷の開催を決意した。本法廷の意義はここにあるといえる。「法廷」は、権力をもたない市民の力で、「慰安婦」被害者に被害をもたらした加害者と加害事実を明確に示し、その責任を当時の国際法により明らかにした。繰り返すが、女性国際戦犯法廷は民衆法廷であり、模擬法廷ではない。

 1999年に国際実行委員会を結成。ソウル会議、上海会議、マニラ会議、台北会議などでどのような「法廷」にするのか議論し、準備を進めていった。まず着手したことは「法廷憲章」(前文と十五条の条文から成る。※1)の制定であった。「法廷」は「法廷憲章」に基づき、立証と共に各国の被害者の証言や元日本兵の証言、専門家証言などを行い、膨大な証拠資料や宣誓供述書を提出し、それに基づいて判決が下された。

 判決は2001年12月4日、オランダのハーグで言い渡された。判決は1094パラグラフ(英文265ページ)にわたる膨大なもので、この判決は日本だけでなく世界の国際法や人権に取り組む専門家、学者たちからもレベルの高さが評価されている。

  女性国際戦犯法廷の開催については、国連人権委員会特別報告者クマラスワミ報告書にも引用(※2)された。また、2003年に発表されたILO条約適用専門家委員会所見は、「女性国際戦犯法廷」について、より詳細な引用と解説を行った。

 また、「法廷」は、国際刑事裁判所(ICC、1998年ローマで設立合意、2003年から オランダ・ハーグで始動)に先駆けて、戦争と武力紛争下の性暴力に対して果たすべき役割を明らかにした世界史的にも意義ある試みであった。

※1「法廷憲章」は、前掲のVAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の全記録[T]』緑風出版、27〜32頁を参照。
※2 2001年。「武力紛争下において国家により行われた、または容認された女性に対する暴力報告書(1997-2000)(E/CN.4/2001/73)」

3、「主催者である松井やより」

⇒ 女性国際戦犯法廷の主催は松井やよりではない。主催は国際実行委員会であった。国際実行委員会は日本と被害国(6カ国)、国際諮問委員会(第三国から国際法の専門家6名が委員)で構成され、それぞれの代表者で共同代表が構成された。松井やよりは日本の代表として共同代表の一人であった。

4、「裁判を始める時、主催者の松井やよりさんが、裁判の会場を九段会館に決めたのは悪の根源である皇居に一番近いからだと明言した」

⇒ 女性国際戦犯法廷の初日、まず、国際実行委員会の共同代表3人(松井やより、尹貞玉、インダイ・サホール)が挨拶した。「裁判を始める時」というのはこの時の挨拶を指していると思われるが、松井はそのような発言は全く行っていない(※)。

※VAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の全記録[T]』緑風出版、38〜39頁を参照。

ちなみに九段会館を会場にしたのは、1000名規模の人が集まれる会場と、300名規模の宿泊ができる施設が併設していたからであり、予約を快く了承してくれる施設はここだけだった。

5、「最初から結論ありきはみえみえ」

⇒ 女性国際戦犯法廷は民衆法廷といっても、世界の五大陸から選ばれた世界的に信頼の高い国際法の専門家や旧ユーゴ国際刑事法廷の裁判官ら(※1)によって、当時の国際法を適用して、被害者・専門家・元軍人の証言や膨大な証拠資料(日本軍・日本政府の公文書等を含む証拠文書)に基づき厳正な審理を経て、判決が出されたものである。

判決は、まず2000年12月12日に「認定の概要」が公表され、一年の休廷を経て2001年12月にオランダ・ハーグにて「判決」が下された(※2)。主催者に対しても「認定の概要」および「判決」は発表まで全く知らされず、「結論先にありき」という発言は根拠なき誹謗中傷であり、「法廷」の事実に基づかない。また、旧ユーゴ国際刑事法廷で裁判長をつとめたマクドナルド氏などの本法廷の裁判官たちの名誉を著しく傷つけるものである。

※1 <裁判官> ガブリエル・カーク・マクドナルドさん(アフリカ系米国女性/旧ユーゴ国際刑事法廷の前所長)、クリスチーヌ・チンキンさん(イギリス人女性/ロンドン大学国際法教授)、カルメン・マリア・アルヒバイさん(アルゼンチン/アルゼンチンの判事/2001年国連総会で、旧ユーゴ国際刑事法廷の判事に選出/現国際刑事裁判所判事)、ウィリー・ムトゥンガさん(アフリカ人男性/ケニア人権委員会委員長)、インド人男性の裁判官は病気のため欠席
※2 <判決文全訳>に関しては、VAWW-NET Japan編『女性国際戦犯法廷の全記録[U]』緑風出版を参照。

6、「(女性国際戦犯法廷)は謀略。当時、拉致問題が問題化しているなかで、北朝鮮を被害者の立場にすることで、この問題の鎮静化を図ろうとしていた。大きな工作の中の一部を担っていた」

⇒ そもそも拉致問題が問題化したのは2002年9月17日の日朝首脳会談以後のことで、「法廷」が開かれたのは2000年12月である。2000年12月時点で表面化していない拉致問題の鎮静化を図るため、北朝鮮を被害者の立場にした工作活動の一環として「法廷」を開催したなどというのは、事実無根の誹謗・中傷である。 日本は朝鮮半島を植民地として支配したが、朝鮮人女性は植民地支配の一環として日本軍の「慰安婦」にされたのである。しかし、日本は北朝鮮に対しては2000年当時いかなる意味でも謝罪・補償をしていない。そのため「法廷」の主催者である国際実行委員会が被害国検事団への参加を呼びかけたのであり、その呼びかけに応じて北朝鮮が参加した。その参加のし方は、他の被害国各国と同じである。

7、「検事に北朝鮮の代表者が二人なっている。工作活動していると認定されている人たちを裁く側として登場させているというのも事実」

⇒ いうまでもなく“裁く”のは「検事」ではなく裁判官。安倍氏の発言は事実と法常識を逸脱している。念のため、女性国際戦犯法廷の検事について補足する。まず、被害国を代表した首席検事はアフリカ系米国女性のパトリシア・セラーズさん(旧ユーゴとルワンダの国際戦犯法廷のジェンダー犯罪法律顧問)と、オーストラリアのウスティニア・ドルゴポルさん(国際法学者/国際法律家委員会のメンバーとして、「慰安婦」問題について調査し、勧告をまとめた)。

 次に、そもそも北朝鮮検事団というのは存在しない。2000年6月の南北首脳会談(金大中大統領=当時と金正日軍事委員会委員長)をきっかけに、北朝鮮と韓国は一つとなって「南北コリア検事団」(韓国から5人、北朝鮮から4人、計9人で構成)が 結成された。南北コリア検事団長は韓国の検事(朴元淳)であった。安倍氏に「工作員」と名指しされた黄虎男氏は、2000年当時「従軍慰安婦」・太平洋戦争被害者補償対策委員会の事務局長であった。

なお、「法廷」には各国から検事団が参加した。南北コリア(韓国と北朝鮮)だけでなく、ほかに中国、台湾、フィリピン、インドネシア、日本も検事団が参加した。検事団は組まれなかったが、オランダ、東チモールからも被害者の証言が行われた。(マレーシアはビデオ証言)

■補足 番組の中の秦郁彦コメントについて

・ 番組は、秦郁彦氏を「法廷に参加した歴史家」と紹介しているが、秦氏は三日間の審理を傍聴してはいない。彼が参加したのは最終日の判決概要の言い渡しだけ。従って、発言内容は事実誤認が見られ、秦氏の歴史認識と法廷の事実関係が混同し、誤った事実を視聴者に伝える内容があった。

・ 一事不再理を主張しているが、「慰安婦」制度については東京裁判では裁かれていない。女性国際戦犯法廷は民衆法廷であるが、位置づけは東京裁判の継続裁判。

以上、安倍氏の発言の事実関係の誤りをいくつか取り出して指摘しましたが、更に正確、詳細にお知りになりたい場合は、『女性国際戦犯法廷の全記録T』(※審理の記録)『女性国際戦犯法廷全記録U』(※起訴状、判決全文掲載)などを参照してください。

※この2冊は共に緑風出版から刊行されています。ちなみにこれは全6巻シリーズの一部であり、このシリーズは出版社としては名誉ある梓賞を受賞しました。

皆様が論点をずらされることなく、事実誤認の情報にとらわれることなく、政治家の番組介入の問題を正面から取材し、真実が明らかにされるまで、いかなる政治的圧力に影響されることなく、屈することなく、真実と正義を追求していただきますことを、心から願っております。

2005年1月17日

「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク

(VAWW-NETジャパン)

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