製作
監督・撮影
編集
整音
撮影協力
脚本協力
編集協力
音楽演奏
録音
字幕
映像提供
写真提供
製作・配給
山上徹二郎 / 班忠義
班忠義
甘文輝 / ジャン・ユンカーマン
小川武
何譯 / 李貴明 / 張双兵
高橋敬子 / 宋建華
山本希平 / 粂田剛 / 秦岳志
盂県民間楽隊
協映
赤松立太 / Passo Passo
林伯耀 / 福澤真由美
新井利男
シグロ
 解 説
山西省一の美人を意味する「蓋山西(ガイサンシー)」と呼ばれた、侯冬娥(コウトウガ)。

その呼び名は、彼女の容姿のことだけでなく、同じ境遇に置かれた幼い“姉妹たち”を、自らの身を挺してまで守ろうとした、彼女の優しい心根に対してつけられたものであり、その後の彼女の人生の悲惨を想ってのものだった。「蓋山西(ガイサンシー)」という名は、やがて山西省の人びとの間で、人間の尊厳を表す言葉となる。

この映画は、班忠義監督が9年の歳月をかけ、中国の大地に侯冬娥(コウトウガ)と、運命を同じくした女性たちの姿を追い続けたドキュメンタリーである。幼くして人生の全てを奪われた女性たちの現在の記録であり、同時に、私たちの明日に向けて語られる物語である。

 監督 班忠義(バン・チュンイ) Ban Zhongyi
1992年、東京のある集会で日中戦争当時旧日本軍から性暴力を受けたという中国人女性の証言と身体に残された傷跡に、私は衝撃を受けた。日本人残留婦人との出会いから戦争問題に関心を持ってきた私は、95年国会での 「不戦決議」の戦争認識に危機感を持ち、日中戦争の事実を知るため山西省の黄土高原に広がる貧しい農村に足を踏み入れた。しかし私の会いたかった「蓋山西 (ガイサ ンシー)」と呼ばれた女性はすでに自ら命を絶ってこの世を去っていた。

それから10年、毎年山西省を訪れ、蓋山西と同じように性暴力を受けた女性達と関わっていく過程で、当時の体験を思い出す恐怖でときに体を震わせながら彼女達は一生懸命カメラを通して私に訴えはじめた。戦後も半世紀以上差別や貧困、病気、恐怖のために明らかに出来なかった自らの過去に彼女達ははじめて向き合い、怒り、悲しみ、悔しさを語った。その後取材を通して出会った元日本兵は、加害の事実に、ある方は淡々とある方は悔悟の涙を流して向き合ってくれた。

戦争体験を伝えること、国を越えてそれを共有することは戦後60年も過ぎて難しいことだ。しかしだからこそ二度と悲惨な戦争を繰り返さないために想像力を持ってお互いに歴史に向き合う、平和を守ろうとする人達とその共同作業を一緒にしていくのが20年近く日中を行き来してきた私に出来る事だと思っている。

 
 姉妹たちのコメント
陳 林桃(チン・リントウ)(中国名:ツェン・リンタウ)
「妹は気を失ったのよ、彼女を苦しめないで私を苦しめなさい。」
「泣かないで、泣かないで。」
「泣かないで」と言いながら、ガイサンシーも泣く、私も泣く。

いつ出られるのか、いつ家に帰れるのか、どうなるのか。
いつまでいるのか。いつの日までいるのか。

李 秀梅(リ・シュウバイ)(中国名:リ・シュウメイ)
ガイサンシーは私に泣いて言った。
「私はどう生きられるのだろうか。」
ガイサンシーは最後に言った。
「医者にみせるお金もない。薬も買えない。」
「苦しさに耐えられないのよ。死ぬほかはないね。」
侯 巧蓮(コウコウレン)(中国名:ホウ・チョウレン)
「話したり笑ったり
時に泣いたり歌ったりする。
母は私が鬼に魂をうばわれたと思って
昼も夜も呼び戻しに出かけた。

  書籍 《蓋 山 西》 ガイサンシーとその姉妹たち

  班 忠義 著著
  発行 梨の木舎
  A5判 360ページ 上製
  定価:2,800円+税
  ISBN4-8166-0610-6

●「ガイサンシーって,何のこと?」私はたずねた。
 「ガイサンシーさえ知らないの? あなたがこのことを調べるなら、まずガイサンシーのことを知るべきだ。彼女は日本軍に一番ひどい仕打ちを受けた人で、最初に日本軍のトーチカに連れて行かれた一人なのだから」――1995年、こうして、中国山西省における中国人女性に対する、日本軍の性暴力に迫る著者の長い旅が始まった。
ガイサンシー《蓋山西》とよばれた女性と数知れないその姉妹たちが、日本軍からうけた性暴力の事実と背景を9年の歳月をかけて追う。

【主要目次】
主要目次
第一章 蓋山西との出会い
第二章 蓋山西を中心に歴史調査
第三章 戦争時代の蓋山西
第四章 蓋山西?進圭社での日々
第五章 蓋山西たちの戦後
第六章 永遠に記憶される蓋山西
エピローグ 中国には多くの“蓋山西”がいる

【あとがき】
1992年に万愛花さんと出会った時のショッキングの一幕が頭に焼きついた。
三年後、日本の国会で終戦50周年を際にして通称「不戦決議」という議案が採択された。多くの日本の政治家の持つ戦争認識に危機感を持った。もっと戦争の真相を知りたい、日本の演壇に倒れた万愛花さんと、健康状態で日本に来られなかった侯冬娥のことを気にして中国山西省へ現地の歴史調査に出かけた。それからあっという間に10年という時間が流れた。使命感、責任感のようなものを感じて、いつか本にまとめたいと思いながら月日が流れた。
日中の歴史問題については、これまで政府主導でやり取りがなされてきたが、歴史の事実は充分に調査されたとは言えず、私たち戦後世代にはその真相、詳細を知る機会が少ないところから、ゆがんだ感情的な対立を生じさせ、両国民間の不信、嫌悪感を増幅させたようになった、と私は思う。
加害者側である元日本軍人たちへの取材と交流は、加害者側の人間に対する私の認識を変化させた。はじめて山西省の戦争被害者たちと出会い、彼女たちの訴えを耳にし、その体に刻まれた数々の傷跡を目の当たりにした時には、人間の仕業と思えないことをした加害者の日本人への怒りが胸にこみあげてきた。初めは犯人探しのような気持ちで日本軍兵士を探した。沖縄戦でほぼ全滅し、生き残った数少ない兵隊と会うと、私の想像とは違って、どの方も残虐さなど微塵も感じさせないであった。
 その時、思い出したのは「恨罪不恨人(罪を憎んで人を憎まず)」という中国古来の言葉であった。例え相手が過去に大変な間違いを起こし罪を犯しても、その人間を憎むのではなく、重要なのは、彼らが証言したように、「天皇を頂点とした当時の教育、社会風潮」が彼らをそのように形成させたということだ。証言で知ることができるのは戦争犯罪の痛ましい事実である。これに十分に耳を傾け、戒めとすべきである。

今年に入って、北京の中国文聯出版社から「血涙ガイサン蓋山シー西(血と涙の蓋山西)」というタイトルで中国語版を出版したが、若者の間で大きな反響をよんだ。中国の『人民日報』の書評では「視角独特、引人入勝(見る角度が独特で、興味津々だ)」と評価された。独特の着眼点を持つ、という意味は、大変ショッキングな性暴力被害についての調査を、被害者側だけの立場から感情的に加害者側を追及し、また中国国内で日中戦争の歴史が書かれる場合必ずと言っていいほど抗日戦争における共産党の役割を事実以上に強調するという従来の書き方ではなく、<何があったのか>、という歴史事実を追うことに努力した点を評価してくれたのだろう。このような書き方は、一般の中国人には目新しく見られたのだろうか。

残念ながら、21世紀に入ってから、中国では愛国主義宣伝政策を強め、日本でも憲法改正への動きをはじめとして時代を逆戻りするような現象が「国」主導によって起きている。しかしその現象も一口に言えるものではなく、その内側では、中国でも単に日本の損害賠償を求める民族派グループだけではなく、民主化を政府に求めたうえで日本の賠償問題を考え、歴史の事実を知ろうとする民主派グループなど市民側の動きがあり、日本においても、戦争へつながる動きを止めようとさまざまな方法で活動している市民グループがある。そのお互いの和解をめざし、自分たちの国も変えていこうとする人びとの存在はメディアには出てこないし、お互いに知られていない。情報化社会になったこの時代には、国と国の問題、また歴史の問題を捉えていくには、両国の市民の連携、共同作業が重要になってくるだろう。

本文でも紹介したが、外国人として日本で生活するなかで私は多くの日本人に助けられた。中学生時代に日本語を教えてくれた中国残留日本人婦人の曽おばさん、一度だけの面識しかない私と手紙のやり取りによって日本留学を実現させてくれた望月光子さん。生活に困っていたとき寄宿させてくれた東海寺の元住職の大嶽義方和尚。お三方とも故人になってしまったが、共通するのはどの方も戦争世代であったという点である。
彼らが私にこれからの日本と中国の心の和解、架け橋役を私に託したといつも思い、これで恩返しをしたいという気持ちもある。

【推薦します!】

小森陽一・東京大学教授・・・・・ 日本軍の性奴隷とされた一人の女性ガイサンシーの、誰にも語れなかった心の奥底を解きあかす言葉。人間が人間であることの尊厳を奪う戦争が、最も弱い女性の心に刻んだ傷を、私たちは共有していく。

田中優子・法政大学教授・・・・・ 従軍慰安婦はいなかった? いや、従軍慰安婦などという生やさしいものではなかったのだ。普通の生活を送る女性たちに、ある日突然襲いかかり人生を持ち去ってしまった暴力。闇の向こうからその正体が見えてくる。

熊谷博子・映像ジャーナリスト・・・・・ 私たちは、彼女たちが受けた心と身体の痛みをどこまで理解しているのだろうか。でも涙を流し、愛と尊敬の思いで必死に抱きしめ、ともに怒り、伝えることはできる。世の中を変えるのだと、あなたと姉妹たちに約束をしたい。新しい勇気をもらった。


【読者から】
梨の木舎御中
 先頃貴社発行の班忠義著『ガイサンシーとその姉妹たち』を読みました。
 中国の女性たちが受けたあまりに苛酷な肉体的・精神的苦痛に頁を閉じ、読み進めるのがつらいことが何度もありました。日本の占領時代だけでなく、社会主義中国となっても、貧困や差別に苦しむ女性の姿に胸が痛みます。
 著者紹介にあった『近くて遠い祖国』『曽おばさんの海』を図書館から借りて読みました。
どんな逆境にあっても、人としてのやさしさ、ぬくもりをもって精一杯生きている女性たちに注ぐ暖かい視線、そしてその女性たちの言葉を通して、歴史や社会を正しく見ることの必要を読者に訴える著者に敬意を表します。
2006/10/12 日野市在住 Y・I

【世界5月号】でも紹介されました。
岩波書店発行『世界』5月号(2007年)


【赤旗 2007年3月30日 班監督と内海愛子さんとの対談】


「朝日新聞」b版
mo@chinaを連載中の莫 邦冨が「ガイサンシーとその姉妹たち」を取り上げました。8月4日掲載


 
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